前回のナルト考察に続いて舞台設定考察記事の第四弾。
今回は世界で最も売れる漫画ONEPIECE。
海外でも知られている海賊漫画である。
主人公の麦わらのルフィ率いる海賊団が出身の東の海ことイーストブルーから偉大なる航路と呼ばれるグランドラインに入り秘密結社バロックワークスと対立する事となる。
その決戦の地こそが砂漠の国であるアラバスタ王国だ。
王女ネフェルタリ・ビビを仲間として秘密結社の黒幕にしてスナスナの実の能力者である王下七武海クロコダイルとこの地で決戦する。
世界観は作品にでてくる強い香水やベリーダンスを彷彿させる踊り子の衣装、スカーフなどで頭を隠した女性の衣装、土壁の住居や丸屋根の大きな建物と尖塔が多数あり所々にヤシの木が生えるのは、モスクが沢山あるアラビアの街そのものだ。
ワンピース18巻より引用。
アラバスタ王国にでてくるナノハナやアルバーナなどの町はアラビア半島にせよ, エジプトなど北アフリカにせよアラビア圏の世界観の特徴と一致する。
作中いくつか町が出てくる中での例外はカジノの街レインベース, 街も比較的ヨーロッパ風のようで行き交う人は洋服を着ている人もいる。イスラム教徒が多数のアラビア地域ではギャンブルはタブー行為。またクロコダイルが拠点とするこの街には水も沢山あるようだ。
あえて当てはめれば、ドバイやクウェートシティ, カタールのドーハなど砂上の楼閣とも啓容される近年の近代化された中東の街のイメージなのだろうか。
ドバイにはラッフルズホテルというシンガポール発の有名伝統ホテルがあるのだが, カジノのあるレインディナーズのようにピラミッドの形状をしているのでモデルとなっているのかもしれない。このホテルの本家のシンガポールはギャンブルで有名な街でもある。
また水が貴重だった時代の記憶が残るこういった街では水がたくさある事を富の象徴として見せつけるかのような施設も数多い。
超高級ホテルが街の象徴でもあるドバイを代表するアトランティスという7つ星ホテルでは地下のレストランや客室が水族館のようになっており、レインディナーズの地下のイメージと被る。
ワンピース19巻より引用
Booking.comより
下記記事より引用
また緑の街エルマルはドバイ近郊にあるアルマダムがモデルではないだろうか。
この町は近代化により町の中心部が高速道路沿いに移動したことで旧市街が砂漠に埋もれた町である。
ワンピース18巻より引用
ワンピースに出てくるエルマルも水不足により街が枯れ果てている様子が描かれた。
ちなみに新世界編で出てくるモコモ公国も中東地域がモチーフとなっているようだ。
こちらのリンクに詳しいが遺跡の雰囲気は世界遺産にもなっているイエメンのサヌアの街並みにそっくりである。
クロコダイル率いるバロックワークスはこの国に裏工作を仕掛けており, 王都アルバーナを除く国中の街は水不足に悩まされている。
そしてこの水不足による国民の不満は国の反乱に繋がる。
アラバスタ王国は古代エジプトをイメージとした舞台設定ということだが, この水不足に苦しむ砂漠の王国という世界観には非常に違和感があるため考察していくこととしたい。
ワンピース20巻より引用
ここで大きなポイントとして出てくるのがサンドラ河の存在である。
そもそもアラビア半島の乾燥地帯において川という存在がそもそもなく, 代わりにあるのがワディという枯れ川なのである。
近年ではトレッキングコースとしても注目されるワディだがガチで雨が降らない地域だとそもそも川が流れないのである。
一方でワンピースのアラバスタ王国ではサンドラ河という大河が流れている。
これはエジプトをモデルとしているためナイル川を想起させるものだ。あるいはメソポタミア文明を育んだチグリス川・ユーフラテス川といっても良いかもしれない。
淡水が豊富な水量で流れる大河は人々の生活・文化をつくっていく。一見すると中東のこういった歴史とよく似たものでもあるのだが, 明らかな違和感が一つ。
それは川の両岸に沿って町が作られていないという事である。
ナイル川でいえば南スーダンのジュバ、スーダンのハルツーム、エジプトのカイロやアレクサンドリアなど首都や大きな町は乾燥地帯において、みんな川沿いに作られるものだ。
それはチグリスユーフラテス川にとってのバグダッドやバスラも同じである。
そもそも国に雨が降らないのであれば上流から水が供給されることもないわけで川が干からびない訳がないのである。
古代中華文明を育んだ黄河も水不足による断流が問題となっている。
ワンピースのサンドラ河は流れは穏やかであるようだが、ものすごく幅が広く豊富な水をたたえる川だ。
実際にカイロを訪れたことのある者ならばわかると思うが, 世界一長い川として知られるナイル川でさえ意外にもその川幅は広くない。日本でみかける大きな川程度である。
では何故ワンピースのアラバスタ王国では巨大な水量を持つサンドラ河があり, そして人々が水不足に苦しむのか, 導ける答えは一つしかない。それはサンドラ河が淡水ではなく海水だからである。
海水であれば飲み水として使いようがないため川岸に町を作る意味はなく, 地下から井戸で水を汲み上げるしかない。
ルフィ達もユバという町で出会った老人トトが地面を掘り進めながら地下水を見つける作業を目にしている。
更にこの仮説を裏付ける証拠がある。それは麦わらの一味がサンドラ河を渡るシーン。
川の西側にあるクロコダイルの拠点レインベースから首都アルバーナを目指して移動する場面だが, レインベースからの移動に使った引っ越しクラブという動物で河を渡り切れずに溺れそうになりサンドラマレナマズに襲われそうになるピンチのシーンで一味を助けたのがクンフージュゴン。
ワンピース20巻より引用
彼らが最初に登場したのは麦わらの一味がエルマルに上陸したときのシーンで, ルフィが決闘に勝つことで弟子入りした彼らが助けたのである。
だが, このクンフージュゴンが登場した時の会話を覚えているだろうか。
サンジ『しかしこの国のジュゴンは変わってんなァ ビビちゃん河に住んでた』
ビビ『・・・ううん 海よ』
と答えるのである。この時出てくる図には海水が河口に入り込んで来てしまっている図が描かれるのだが, 人々の生活が水不足で脅かされ, 反乱がおきてしまうほどの国にして海の浸食は甘いように思える。
海水に住むジュゴンがレインベースとアルバーナを繋ぐほどの上流エリアにいたことから考えても、筆者はサンドラ河自体が上流まで海水になってしまっていると考える。
では何故海水になっているのか?
一つは河の標高差がないというのはあるだろう。
そして先に出てきた説明の通り雨が降らない水不足によって海水があがってきてしまったと考える見方もあるかもしれない。
だがこうも言えないだろうか。
このサンドラ河はもともと海であったからという事だ。
つまりアラバスタ王国を形成するサンディ島の中央部に川が流れるのではなく, 元々別々の島がなんらかのの理由で上流の北側でくっついてアラバスタ王国が形成されているという見方もできるのである。
そして雨が降る事で島と島の間の部分に水が溜まり流れて川になったという事だ。
このように考えれば王都アルバーナを始め各街が水の豊富な川沿いではなく内陸部に作られた理由も納得できる。水を利用するメリットがない以上は島の端っこの海沿いという外敵からの攻撃に晒される場所を避けるためだ。
ところでこのアルバーナには外から絶壁で守られている。砂漠の中にこんな地形があるのは漫画の世界だからで片付けてしまいそうなところだが, 実際の砂漠においてもこんな地形は意外と存在するのだ。
サウジアラビアにあるedge of the worldだ。
ワンピース20巻より引用
以下リンクより引用。
サウジアラビアはメッカを巡礼するための信徒には寛容だが, 欧米や日本からの観光ビザを取得するのは非常に難しい国として知られていた。2019年に観光ビザが解禁されたのだが, それも結局コロナのパンデミックによってあまり盛り上がらずうやむやになってしまっている。
そんなこんなで全然観光情報が出回らないため, アラビアの大国の観光ポテンシャルは知られていないままなのだが, サウジアラビアはメッカとかメディナのような宗教的聖地やリヤドのような煌びやかな街だけでなく砂漠に独特な地形を持っている国なのだ。
リヤドから数10kmいった砂漠にあるEdge of the Worldはその代表格。
日本語訳で地球の端っこという名の通り砂漠に突然の絶壁が出現するのである。
まるでアルバーナの城壁のようだ。
Visitsaudiより引用
ところでアラバスタ王国の考察記事を検索すると最もよく出てくるのが古代兵器プルトン。悪役クロコダイルが探していて王家の谷にある古代文字で書かれたポーネグリフにその詳細が記載されている。
解読できるニコロビン曰く, そこには確かにこの国に古代兵器が存在すると書いてあったそうだ。
ではこの古代兵器プルトンはどこにあるのか?
筆者はアラバスタ王国のまるまる東半分こそがプルトンなのではないかと考える。
つまりもともとあった西岸側の島にプルトンが岸につけ, あるいは東岸の浅瀬に座礁することでサンディ島・アラバスタ王国の全体像が形成され, その間がサンドラ河になったのではないか。
そうすればあの川の長さにも関わらずあれほど大きな幅の川になった事も説明がつく。
そしてプルトンとは戦艦と聞いて想像するような規模感のものでは全くなく大きな島ほどに大きい巨大戦艦なのである。
一見突飛なアイディアに思えるかもしれないが, ワンピースには既に島のような大きさの船が登場している。スリラーバーグである。あの船も島かと勘違いしてしまうような大きさであった。古代兵器と称されるプルトンであればそれよりも遥かに大きくてもおかしくはないはずだ。
ワンピース654話より引用
もしこの説が正しいとすると, プルトンの持つ一発で島一つを跡形もなく吹き飛ばすほどの大砲とは何なのだろうかという疑問が出る。島一つを吹き飛ばすとなるとその砲台も規格外の大きさであろう。
作中でビビ達が食い止めた時計台からの砲撃はビビの身長の2倍強の直径であった。故に広場の人間をまるまる死なせるこの砲撃の直径を5mと仮定しよう。
アルバーナにおける広場の大きさから考えるとアルバーナという一つの街全体を吹き飛ばす程の砲撃にはこれの20倍程度の砲台が必要と推察できる。
そして更に島全体を吹き飛ばす程の砲撃となると少なくとも更に100倍程度の砲台が必要と考えられる。
これらの推察を総合するとプルトンの持つ砲台の直径は少なくとも10km程度あるのではないだろうか。
直径10kmとなると町一つ分にもなる大きさだ。ではアラバスタ王国のどこにそんな大きな大砲があるのか?そこまで大きなものとなるとかなり目立つ存在だろう。
作中にもそんな巨大構造物がでてくる描写はなかった。
いや一つあるのではないか。それはアルバーナの絶壁である。あの絶壁は上から見ると円。つまり円柱の形をしているのだ。
つまりアラバスタ王国の東半分がプルトンという巨大戦艦でありアルバーナの絶壁がその主砲となっているということだ。
この説を示唆するもう一つの理由はプルトンの設計図を見てどういったものかを知っている者達の存在。つまり今は亡きトムさん・アイスバーグ・カティフラムことフランキーである。彼らは設計図を見ているのでどういった大きさのものかはわかっているはずだ。
アイスバーグとフランキーが初めて設計図を見た時の驚きようはまるでそんな異常なものが本当に造れるのかという反応であった。
設計図の中身は結局作中で明らかにされなかったのだが, それを示唆するものがウォーターセブン編の最後に示された。
それはアイスバーグがウォーターセブンを島ごと海に浮かべるといったシーンだ。
突飛なアイディアにも思えるが, アイスバーグが可能だと思いフランキーが納得したのも彼らが類似ものであるプルトンの設計図を見たからこその着想ではないだろうか。
島程に巨大な戦艦が海に浮かぶ設計図を見たものであれば, ウォーターセブンのような比較的小さめの島を海に浮かべるという発想は出てもおかしくはないはずだ。
まとめ
最後に自分の仮説を整理する。
・アラバスタ王国の世界観は中東から北アフリカにかけてのアラビア地域。
・サンドラ河の水は淡水ではなく海水。
・西岸側の元の島の北側に巨大戦艦プルトンが東から接岸して王国が形成されている。
・プルトンの巨砲はアルバーナの絶壁が砲筒となっている。